カトマイ国立公園は、グリズリーの世界最大の禁猟区だ。アンカレッジから飛行機で中継地のキングサーモンまで1時間30分、さらに水上飛行機に乗り換えて30分。目的地のカトマイ国立公園の玄関口ブルックス・キャンプに着いた。そこから徒歩で約20分、グリズリーが集まるブルックス滝を目指した。
グリズリーはかつて全米に生息していたが、自然破壊や乱獲によりその数が激減。ここカトマイには2000頭以上が生息していると言われる。 7月の最も大きいベニザケが川登りを始める時から9月頃まで、熊たちはブルックス川、Naknek湖、ブルックス湖海岸線に沿って、ブルックスの滝(ブルックスキャンプ)に集まってくるのだ。
グリズリーが狙うのは、産卵のため川を遡上してきたサケだ。段差のところで待ち構え、鋭い牙が届く範囲に来たサケを狙う。するどいあごで噛みつき、太い腕で叩きつけるように川底にねじふせ、するどい爪で押さえつける。噛み付いたあごをえら付近から尻尾に向かって、横に大きく振ると、一瞬でサケの体は裂け、ハラワタが露わになった。
「ブルックスの滝」ではもっとも多くのサケが得られる上流はオス、そして、そこから離れた川下にメスとはっきりと分かれている。メスが上流に近づけないのは、オスが小熊を襲うためだ。
サケも60センチほどの大きさがあり力は強い。グリズリーの手から逃れるものもいるが、瀕死の痛手を負ったサケは間もなく絶命する。こうして流れ落ちていくサケを川下にいるメスが拾うのだ。
流れてきたサケを得た母熊は、安全な場所に持ち帰ると小熊に与えた。それでも落ち着かない様子で、しきりに周りを観察している。しばらくして母熊が遠くの1点を見つめた。背筋をピンと立て、しっぽをぴたりと下げ、緊張した様子だ。オスがやってきたのである。直後、一目散に川下に逃げていった。
オス熊はメスに比べるとだいぶ大きい。母熊も小熊も空腹がまだ収まらないようだ。未練ありありでしばらくあたりをうろうろしていたが、しばらくすると諦めてその場を立ち去っていった。
(ライター 橋本滋)
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