“原発特別扱い”
2016年から家庭向け電力が自由化され、消費者は自由に売り手を選べるようになり、電気料金の値下がりが期待されている。ところが、密かに再稼働、新設などを含め原発にかかる費用を電気料金に上乗せしようという計画が進められているという。
原発費用は国民負担?
政府と電力会社が独占的に決めてきた電気料金は、2016年以降、自由化されることが決まっているが、密かに“原発の特別扱い”が進んでいるという。東京新聞は9月3日の社説で、経済産業省の有識者の間で密かに交わされている話として紹介した。
その話とは電気の市場価格が基準価格を下回った場合、「原発の新規建設、廃炉、維持にかかわる費用を、全消費者の電気料金に差額分を上乗せする」というもの。従来通り、電気料金は政府と電力会社で決め、原発を動かす大手電力会社に損がないようにするという。つまり原発ありき、電気の自由化とは名ばかりということなのだ。
これまで「安い電源」とされてきた原発だが、ひとたび事故が起これば、巨額の賠償費用が必要になる。自由競争に耐えられないほどコストは高く、「独占事業の中でなければ原発事業が成り立たないことを、国も認めているということ」と記事は指摘する。
避難計画があっても避難できない
原子力規制委員会の安全審査を通った原発は「再稼働」を進めていくという方針のもと、その先陣を切って10日、九州電力川内(せんだい)原発が新規制基準に適合しているとの判断が出て、年末に再稼働する予定で進んでいる。その一方で原発事故に備え、国は自治体に避難計画を作るよう指示しているが、川内原発の周辺自治体では未完成という。安全審査には「避難計画」は含まれていないそうだが、国民の命はおかまいなし、というようにも見える。
その一方、NHKが原発30キロ圏内の全国の自治体にアンケートをとったところ、半数以上の自治体が「避難計画の作成を終えた」と回答したというが、未完成という自治体も少なくない。
今年4月に青森県の原発の建設計画凍結を求めて提訴した対岸の北海道・函館市の市長がテレビのインタビューで「事故が起きれば、避難は難しい」と語っていた。また、全国自治体の首長で構成する「脱原発を目指す首長会議」でも避難計画の実効性を疑問視する声が上がっていた。
福島原発事故が起きたときも、道路が渋滞し、長い車の列ができた。限られた道路しかない地方では、何万人もの人の一斉避難は困難を極めるだろう。半数以上の自治体が作り終えたという避難計画の実効性はいかなるものなのだろうか。
必ず起きる自然災害
政府は原発を重要なベース電源として位置付け、原発再稼働、さらに新設も進めようとしている。その理由に挙げるのが、安定かつ安い電源とされること、そして、「CO2を出さず、化石燃料の依存も減らせる」という地球環境問題、温暖化の対策という点だ。
原発が安い電源ではないことは共通認識になりつつあるが、日本はプレートが複数入り込む世界的にも珍しい地形で、無数の活断層もある。東京では30年以内に70%以上の確立で大地震が起きると言われ、西日本では南海トラフ地震も心配されている。世界でも地震大国である日本。そんな危険性の高いところで、原発事故が起きれば取り返しがつかない事態になる可能性が高い。
そして、使用済み核燃料の処分方法も依然、見通しはつかない。今も福島原発周辺は放射能に汚染され立ち入ることができないことを考えれば、地球環境問題、温暖化対策という説明も苦しく、国民の理解も得にくいのではないか。
東京電力・福島第一原発の故吉田昌郎所長は事故4日目に「東日本壊滅を覚悟した瞬間があった」と語っていたという。何がなんでも原発再稼働するという姿勢は、福島の事故のことはすっかり忘れてしまっているかのようだ。
福島原発事故でスピーディーの情報がありながら、国民には知らされず、拡散する方向に多くの人が避難した。原発事故が起きたとき、福島以上の被害が出る可能性は十分ある。誰も責任をとらない無責任体制であるならば本当に怖いことだ。