盗掘など、問題も山積


生物多様性佐渡戦略に沿って、生態系の保全、産業の育成、佐渡環境ブランド化、環境負荷の少ない循環型社会づくりの促進を進める佐渡。環境保護と地域振興を両立する成功モデルを創れるのか。今後の動向が注目される。

野生化でのトキのヒナ誕生で沸き立つ佐渡だが、一方で問題も山積している。環境省には子育ての場所に関する問い合わせも絶えないが、人が近づけば警戒から悪影響を及ぼす可能性もあるため、公開されていない。

タクシーでトキを追いかける光景も見られる。近くで見たいという顧客の要望もあり、また、それに事業者側がサービスを提供するものだが、環境保護の観点にはそぐわない。トキはたいへん神経質な鳥だ。再び、絶滅の恐れもあるだけに、こうした行動を自粛してもらえるよう関係機関は呼び掛けている。

また、トキが田んぼに舞い降り、稲を踏んだりすることによる農作物の被害も増えている。トキが暮らし続けるためのエサの確保など問題は山積しており、多様な生きものと共生する社会への取り組みは道半ばだ。

森林における希少種植物の盗掘も絶えない。観光と地域活性化、そして、身勝手な人の行為、それぞれのバランスをとることは容易なことではない。「貴重な自然を見てもらいたいという想いはあるが、悪意のある人に知られれば破壊につながる可能性もある。そのジレンマに悩む」とあるガイドは言う。

トキ二世の誕生まで、トキ野生復帰に取り組んだ関係者たちの道のりは平たんなものではなく、一度、絶滅した種をもとの状態に戻すことは、いかに困難であるかということの証でもあった。

島内の障害者施設に通所しているかずのりさんは「佐渡の空 天の羽衣(はごろも)、朱鷺(とき)は舞い 心ひとつに自然と生きる」という詩を詠んでいる。人もまた自然の一部であることを認識し、自然と共生しながら暮らしていく道を探るべきであろう。佐渡での取り組みが成功し、全国の自治体にとってのひとつのモデルとなればいい。





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左上:島内では樹齢数百年の巨木が見られる(佐渡観光協会提供)
右上:佐渡金山で露天掘りが進められた跡
左下:長年の浸食された断崖・尖閣湾
右下:桟橋付近で泳ぐ子どもたち